その2

占い師現る


台北市内の観光名所をダラダラと廻り終え、宿には夜10時過ぎに戻って来た。どうやら談話室に誰か居るようだ。
そこでは、若い男女がテーブルに向い合って座り、話をしているかのように見えた。しかし、それにしては静か過ぎる。何か張り詰めているかのような雰囲気がそこにはあった。テーブルの上を見るとカードが置いてある。カードをめくりながら、女性が男性に向かって何か確かめるように語りかけている。

あれはひょっとして・・・「遊戯王」カードというやつか?今まで一回も遊んだことないけど。今の若い男女は、夜な夜なカードゲームで遊ぶのが流行っているのか~よぉ~し、俺も混ぜてもらうか~ルールわからないけど、と思いながら近づいていった。

良く見ると男性はH君らしい。女性は見たことがない人だった。おそらく今日着いた人なのだろう。カップル客では無かったので少しホッとする。

簡単に挨拶をして世間話を始める。女性の名前はマーヤさんと呼ぶことにする。年は30歳手前ぐらい。マーヤさんはタイに行くらしく、台湾へは国際線の乗り継ぎで寄ったらしい。明日の朝に空港へ行くという話だった。

マーヤさんの職業を聞いて、思わず声を上げて驚いてしまった。現役の占い師らしい。つまり、テーブルの上に置いてあるのは、遊戯王カードではなく、タロットカードだった。「バトルしようぜ」と言おうとしていた自分が恥ずかしい。

そして、カードを試しにテーブルに置いただけで、まだ占いは始まっていないということも話からわかった。

マーヤさんは学校を卒業して数年間、会社勤めをしてから占い師に転職したという話だった。今は関西方面の酒場で占いをしながら、生計を立てているらしい。 

格好良い!! と素直に思ってしまった。流しの占い師なんて初めて見た。自分の心が少し踊るのが良くわかった。

それからしばらく話をすると、H君だけでなく、自分も占ってもらえることになった。会ったのも何かの縁、ということで無料になった!!ありがとうマーヤさん。
早速、H君のタロット占いが始まった。マーヤさんのタロット占いは、1枚のカードを引いて、それを元に占いとするという、至って簡単なものだった。H君の時に出たカードは、「吊された男」。ジョジョで言えば、両手とも右手の男である。一体、どんな結果が出るのだろう

「語学留学というのは言い訳で、本当は逃げているだけ」とマーヤさん
「えっ・・・」と言葉を失うH君。いきなりの先制パンチは、H君にとってあまりにも重すぎた。

「H君はなんでも頭で考えすぎている。そのままでは人間関係が上手くいかない。パソコンの電源を落とした方が良い」 
もし、ここにH君の母親が居たら、同じ事をH君に向かって言い放つと思う。しかし、マーヤさん…明らかに見た目や話し方で判断してません?パソコンの大先生に向かって、その言い方はあまりにも酷ではないですか?

結局、H君は日本で就職するよりも、グローバルな世界を目指して頑張った方が良いということになった。この結果は、語学留学生で来ているH君にとっては、朗報のはず・・・だけどH君は、複雑な心境らしい。本人の表情がそれを物語っていた。

次は自分の番になった。また、H君の時と同じ方法で占いが開始される。そして引いたカードが「星」スターである。ジョジョで言えば、空条承太郎である。こりゃ縁起の良い!!やれやれだぜと思っていた。

「旅はどれくらいの期間を考えているの?」
「1年ぐらいを考えてます」
「1年は辞めた方が良いよ。1年も海外へ行くと、色々な国が見たくなって、絶対に1年では済まなくなる。最高でも半年で切り上げた方が良い。あと色々な人に出会って、今まで築いた価値観がガラっと変わることになる」

スタープラチナが一体どこら辺に関係しているのかわからない結果について、この時はほとんど気にしなかった。
最低でも1年以上は海外に居るつもりだった。しかし、結局のところ、半年で帰国したし、色々な人に会って、自分の価値観が少しずつ変わり始めたのは事実である。
マーヤ先生が言っていた事は、決して間違ってはいなかったのだ。

「そういえば、タロットカードって、カードの位置によって意味が変わると聞いたけど本当?」とマーヤ師にさりげなく聞いた時
「えっそうなの?そんな事知らない。私は占い師ではなく、本当はカウンセラーになりたいの 」
 「本当は、タロットカードなんてどうでもいいの」と最後に言ってはいけない事をカミングアウトしてしまったのは、ここだけの話。

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