その5

金持ちと庶民の格差


安宿を利用している宿泊客の半分は、何か人と違うものを持っているらしい。自分が実際に利用した感想は、もう少し高めだと思う。

安宿を利用する人の傾向として、年齢とズレ度(俗に言う変わっている人)は比例関係にある。高齢であればあるほど、独自路線を歩んでいる確率が高くなるようである。それに伴って、自分を大きく見せるための嘘の膨らませ具合も比例する。

安宿に泊まっている学生は、性格がしっかりしていて、目的意識の高い人が多かったように思える。立派な学生が多かった。適当に生きている自分が恥ずかしくなったくらいだ。

年齢別に〇〇世代という物差しで、何でも枠にハメて考える連中の方がよっぽど卑猥に思える。

彼に会ったのは、寒い冬だった。台湾は沖縄よりも南に位置しているのに、沖縄よりも寒い。台湾の平野部に雪が降ることはない。しかし、1日の最低気温が1桁という日がわりとある。 台湾の冬は、結構寒いのである。

そんな冬の日の夜に、タンクトップに半ズボン、ビーチサンダルという、季節感を完全に見下した格好で、彼はゲストハウスに現れた。

彼は午前中に着いたらしく、ほぼ一日、カブト虫を追いかける少年のような格好をして過ごしていた。 
次の日から彼の姿を見かけなくなった。なぜなら、風邪で寝込んでしまったからである。

彼は、色黒でまだ幼い感じが残る青年だった。今後、彼を南国君と呼ぶことにする。

次の日からゲストハウスの電話は、ずっと鳴りっぱなしだった。オーナーに聞くと、南国君の母親らしい。息子が心配で心配でしょうがないらしく、30分に1回の割合で、何度も電話をかけてくる。それがこの日の深夜まで続いた。南国君は、病院へ行かずにドミトリー部屋で寝たきり状態になっていた。

それから2日後、治る見込みが訪れそうにない南国君は、ようやく重い腰を上げ、病院へ行った。

病院から帰って来る頃には、顔色がすっかり良くなっていた。今まで人と話をしていなかったせいか、人恋しさがあるようだった。
談話室で南国君を交えて話が始める。


この時に、なぜ南国くんが「ぼくのなつやすみ」のような格好をしていたのかが分かった。南国君は、台湾に来る前、フィリピンでボランティア活動をしていた立派な青年だったのだ。


南国君は、ニューヨークの高校を去年の秋に卒業、今年の春には日本の大学へ入学することが決まっている。大学に入るまで時間が空いているので、その期間を使ってボランティア活動をしているらしい。

「ニューヨークの高校ってカッコイイね~」と私

「そうでもないです。そこの高校は授業料が高くて…自分が払っているわけでないですけど・・・」

「いくら?」

「授業料だけで年間500万円と聞いてます」
え?500円?アメリカの高校の授業料ってそんなにも安いんだ。生活費等を含めれば、どれくらいになるのだろう・・・

「同学年に有名な芸能人の息子、娘や1流企業の会長の息子、韓国大企業の親族の息子等がいました」

え?やっぱり万か・・・500円な訳はないか。有名人のご子息が通う学校か・・・ブルジョワジーと一般庶民とは世界が違いすぎるな


「同級生の金銭感覚が凄くて・・・アメリカの別荘へ移動する時、プライベートジェット機を当たり前のように使うんですよ。さすがに学校からも止めるように言われたらしいです」
 
「自分の同級生のほとんどが渋谷に住んでいるんですよ。一回行ったことありますよ。有名芸能人の家に」

「うちはあまりお金がなくて・・・家ですか?渋谷に住んでます」
お金が無いのは、同級生と較べてということらしい。年間500万円の授業料を払えるのに、堂々とお金が無いと言えるのは、下界の生活を知らない若者の特権である。

「うちは全員、若い頃海外に出る習慣があるんです。父親も母親もそうでした。 姉さんは5ヶ国語くらい話せます。今年、大学卒業だったんですよ。〇〇製薬って知ってますか?(有名一流企業)そこに就職が決まりました。他にも似たような企業から6つほど(一流企業)内定をもらったそうです。ところで内定ってなんですか?」

まるでバブル時代の学生を彷彿とさせる発言。聞く人によっては、電子掲示板に呪詛の言葉を吐き続けることになるだろう。

もう、南国くんではなく、世を忍ぶ仮の姿 徳田新之助の新様とお呼びした方が良さそうだ。もし、結婚適齢期の女子がここに居たら、体のあらゆる部分からフェロモンが発散され、眼は狙いすました肉食獣のようになるだろう。

「そんなにも高い授業料の高校に行けるなんて、新様の家はどんな仕事をしているの?」


「うちは曽祖父が残してくれた土地を人に貸してます。曽祖父は、日本でも有数の製糸工場を経営していました。今は無いですけど」

「その曽祖父の教えの一つが『教育にはお金を惜しむな』でした。だから授業料が高くても、うちはお金を惜しみません」 

「曽祖父の教え ー これであなたもミリオネアになれる ー」そんな感じの本を出せば、けっこう売れそうな気がする。
顔も経歴も懐具合もわからない作家が出すハウツー本よりも、よほど説得力があると思う。


お金が潤っている人は、ゆとりがある。ゆとりには、人やお金、その他諸々を引き寄せる魅力があるようだ。お金が無くとも、ゆとりがある振りをして、成功を引き寄せたいものだ。

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